【体験談】新人が辞めていく職場の”本当の原因”について考える

人生観

こんにちは、私はとある大手テック企業で働くITエンジニア歴15年のタロー(仮名)です。今日は少し重いテーマについて書きたいと思います。テーマは、なぜ自分の職場では、新しく入社した人が次々に辞めるのかということについてです。

きっかけは後輩の退職

ある日、入社半年の後輩が突然退職しました。彼は非常に優秀で、最新技術への知識も深く、チームに新しい風を吹き込んでくれていた存在でした。

その日の朝は、いつもと変わらない月曜日でした。彼は黙々とコードを書き、時折チームメンバーに質問をしていました。新しいフレームワークの導入を提案するプレゼンの準備もしていたはずです。

ところが昼過ぎ、彼から「少し話がしたい」とSlack通知が届きました。会議室で話を聞いて愕然としました。「もう限界です。入社した時の期待と現実が...」と、彼は言葉を詰まらせながら話し始めました。

話を聞けば、古参の開発メンバーからの度重なる否定的な反応、新しい技術導入への消極的な態度、暗黙のルールによる制約...。彼の情熱は、いつの間にか社内の古い慣習という壁に阻まれていたのです。

「最後まで諦めずに戦ってほしい」「変えていける」そう声をかけましたが、彼の目は既に決意に満ちていました。「タローさん、ありがとうございました」と深々と頭を下げられた時、胸が締め付けられる思いでした。

実は過去2年間で、すでに5人の若手メンバーが同じように去っていきました。彼らはそれぞれ「社風が合わない」「キャリアプランが違った」など、異なる理由を口にしていましたが、根本的な原因は同じだったのかもしれません。

その夜、残業して帰る途中、ふと思いました。「うちの会社って、何かがおかしいんじゃないか?」

「腐った水」の存在

「動かない水は腐る」という言葉がありますが、組織も同じだと思うのです。15年のエンジニア生活で、私は様々な「腐った水」を目の当たりにしてきました。

型にはまった否定から始まる会話

「それは無理だね」
「そんなの前例がない」
「今のやり方で何が悪いの?」

こんな言葉、皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

別の日のことです。若手エンジニアがコンテナ化による開発環境の統一を提案しました。確かに移行には工数がかかります。でも、チーム全体の生産性を考えれば十分なメリットがあるはず...。

しかし、某ベテランエンジニアの第一声は「それは無理だね」。理由も聞かずにその一言です。若手の表情が曇るのを見て、私は胸が痛みました。

「腐った水」の3つの形態

私の経験上、若手が次々と辞めていく職場には、必ずと言っていいほど以下のような「古い水」が存在します。

1. 技術の守護者を気取る古参社員

「セキュリティ上の懸念がある」「安定性が保証できない」。もっともらしい理由を並べ立て、新しいツールや手法を頑なに拒否します。実際は、自分の技術的優位性が失われることを恐れているだけかもしれません。

ある時、JavaScriptのモダンなフレームワーク導入が提案された際、「jQueryで十分」と一蹴されました。その瞬間、若手たちのため息が聞こえた気がしました。

2. 経験値を武器にする「お局」存在

「私たちの時代は...」が口癖です。確かに豊富な経験は貴重です。でも、それを新しい提案を潰す武器にするのは違うと思います。

プロジェクト管理ツールの導入を提案した時のこと。「エクセルで今までもやってこれた」の一言で議論が終わってしまいました。効率化より、これまでのやり方を守ることが優先されるのです。

3. 声の大きい古株

組織図上の権限はなくても、実質的な発言力を持つ「ボス猿」的存在。彼らの意向が、いつの間にか「チームの総意」になってしまいます。

新卒の子が「スクラム開発を試してみませんか」と提案した時です。みんな興味を示していたのに、某ベテランが「うちの文化に合わない」と言った途端、誰も賛同の声を上げなくなりました。

見えない圧力の正体

彼らは一見「会社の文化を守っている」ように見えます。時には「安定性」や「品質」という大義名分を掲げることもあります。

でも実は、組織を腐らせる最大の原因となっているのです。若手の情熱は少しずつ失われ、革新的なアイデアは生まれる前に消え、結果として組織全体が停滞していきます。

特に怖いのは、この状況に気づかない組織の空気です。「今年も何人か辞めたね」「最近の若い子は根性がないよね」。そんな他人事のような会話が、日常的に交わされている...。

私自身の反省

正直に告白しなければなりません。この記事を書いている私自身も、かつては「腐った水」の一部だったのです。いや、もしかしたら今でもその気があるのかもしれない...そう自戒する日々です。

気づかぬうちに「守旧派」に

入社10年目くらいの時でした。チームに新しく入った新卒エンジニアが、テスト駆動開発(TDD)の導入を熱心に提案してきました。

その時の私の反応を今でも覚えています。
「それは理想論だよ」
「納期が厳しいのに、そんな余裕はない」
「今のやり方で今まで上手くいってるじゃない」

完全に「腐った水」そのものでした。新しいことを否定する理由を、さも正論のように並べ立てる...。今思えば、単に変化を恐れていただけなのですよね。

転機となった出向経験

変化のきっかけは3年前、あるスタートアップへの半年間の出向でした。

最初の1週間は本当に戸惑いの連続でした。

  • 朝会でインターンが役員に噛みつくような議論をする
  • 誰もが自由に技術選定を提案できる
  • 「前例がない」がむしろ歓迎される雰囲気
  • 週1でランダムにペアプロをする制度
  • 失敗を「学習コスト」として前向きに捉える文化

特に衝撃だったのは、私より10歳以上若いテックリードが、私の古い考え方を真正面から指摘してきたことです。

「タローさんのその考え方が、チームの生産性を下げているんですよ」

ズキッときました。でも、彼は続けてこう言ったんです。

「だからこそ、タローさんの経験と、新しい方法を組み合わせれば、もっと凄いものが作れるはずです」

目から鱗が落ちた瞬間

出向先での経験は、私の目を開いてくれました。

  • 新しい技術を積極的に取り入れることで、保守性が劇的に向上する
  • 若手の斬新なアイデアが、しばしば古参エンジニアの経験則を超える
  • 「変化」を恐れることが、実は最大のリスクになっている

特に印象的だったのは、生産性の違いです。ユニットテストの整備と、CIパイプラインの自動化により、私たちの会社の3倍のスピードでリリースを回していました。

出向から戻って

出向先のスタートアップ企業から元の職場に戻ると、自分の会社の風景が全く違って見えました。それまで当たり前だと思っていた慣習の多くが、実は「腐った水」だったことに気づいたのです。

  • コードレビューという名の技術的イジメ
  • 属人化を「職人技」と誤認する風潮
  • 残業を美徳とする考え方
  • 年功序列による発言力の差

今では意識的に、以下のことを心がけています:

  1. 新しい提案には「まずは聞く」姿勢を持つ
  2. 若手の意見にこそ、新鮮な視点があると考える
  3. 自分の経験を、可能性を潰す道具にしない
  4. 定期的に自分の価値観を見直す

それでも残る葛藤

正直、今でも葛藤はあります。新しい技術やプラクティスを目にすると、つい「それは無理だ」と思ってしまう自分がいます。

でも、そんな時は出向先で学んだ言葉を思い出すんです。
「経験は、未来への懸け橋であって、足かせであってはいけない」

変化は自分から

「腐った水から変えるべき」という言葉には強く共感します。でも、それを経営者任せにしているだけでは何も変わりません。変化は、私たち一人一人から始まるのです。

小さな成功体験から

6ヶ月前、私は自分のチームで小さな実験を始めることにしました。

毎週金曜日の午後2時間を「技術検証タイム」として確保したのです。若手が興味を持っている新しい技術を、実際のプロジェクトの課題に適用してみる時間です。

最初は古参メンバーから反発もありました。
「そんな時間があるなら既存のプロジェクトを進めるべきだ」
「遊んでいる場合じゃない」

でも、1ヶ月後には状況が変わり始めました。

若手が検証したTypeScriptの型安全性が、実際のバグの早期発見につながったのです。これをきっかけに、次第に「技術検証タイム」を待ち望む雰囲気が生まれてきました。

「抵抗勢力」との向き合い方

組織の中には必ず変化に抵抗する人がいます。しかし彼らを敵視するのではなく、味方につける工夫が必要です。

そのための具体的なアプローチをご紹介します:

1. データで語る

「新しい技術を導入したチームのバグ報告件数が30%減少」
「CI/CD導入後、リリースにかかる工数が週あたり4時間削減」

このような具体的な数字は、反対意見を説得する強力な武器となります。

2. 段階的な導入

いきなり全面的な変更を求めるのではなく、小さな範囲での試験的導入から始める。私の場合、新規プロジェクトの一部機能だけをコンテナ化することから始めました。

3. メリットを「翻訳」する

技術的な提案を通すためには、各立場の人にとってのメリットを、その人の「言語」で説明する必要があります。私の経験から、いくつかの効果的な「翻訳例」をご紹介します。

TypeScriptの導入を提案する場合
対象者 メリットの説明
技術者 • 型安全性による堅牢なコード開発
• IDEによる入力補完で開発効率アップ
• リファクタリングの安全性向上
• ドキュメント代わりになる型定義
マネージャー • バグ修正コストの30%削減
• 新規メンバーの立ち上げ期間を半減
• レビュー工数の大幅削減
• 仕様書と実装の齟齬を防止
経営層 • 品質向上によるユーザー満足度アップ
• 開発生産性向上による市場投入の早期化
• 保守運用コストの削減によるROI改善
• 優秀な人材の採用・維持に貢献
コンテナ化を提案する場合
対象者 メリットの説明
技術者 • 環境構築の自動化による工数削減
• 本番環境の完全再現による不具合の早期発見
• マイクロサービス化への準備
マネージャー • 新規参画メンバーの環境構築時間を90%削減
• デプロイ失敗率の大幅低下
• スケーリングの柔軟性向上
経営層 • インフラコストの最適化
• サービス安定性の向上
• 事業の急成長への技術的対応力強化
テスト自動化を提案する場合
対象者 メリットの説明
技術者 • 手作業による確認作業からの解放
• リグレッションテストの確実な実施
• テストケースのコード化による再利用性向上
マネージャー • リリース前確認の工数50%削減
• 休日・深夜のリリース作業の削減
• 属人化の解消
経営層 • リリース頻度の向上による市場対応力強化
• 品質保証コストの削減
• 従業員の働き方改革への貢献

このように、同じ技術的な施策でも、説明する相手によって全く異なる切り口で提案する必要があります。重要なのは、相手の立場で考え、その人が最も気にしている課題への解決策として提示することです。

具体的なアクションプラン

変化を起こすための具体的なステップをご紹介します:

期間 具体的なアクション
明日から • 朝会で1人5分の「新技術紹介」を始める
• コードレビューで「なぜダメなのか」ではなく「どう改善できるか」を考える
• 若手メンバーと定期的な1on1を設定する
来月から • チーム内で月1回の技術共有会を開催
• 新しい技術の検証用サンドボックス環境の整備
• 成功事例・失敗事例の共有データベース作成
半年間の目標 • 新規プロジェクトでモダンな開発手法を全面採用
• チーム横断的な技術コミュニティの形成
• 社内技術ブログの立ち上げ

変化を持続させるために

一時的な変化は簡単です。難しいのは、その変化を定着させることです。私が実践している継続のためのポイントをご紹介します。

ポイント 具体的な取り組み
小さな成功を可視化する • 週次でのKPIレポート作成
• 改善事例のチーム内共有
• 定期的な振り返りミーティング
反対意見も受け入れる • 懸念点は真摯に受け止める
• 代替案を一緒に考える
• 段階的な改善を受け入れる
継続的な学習環境の整備 • 社内勉強会の定期開催
• 技術書籍の購入補助
• 外部カンファレンスへの参加支援

失敗から学んだこと

もちろん、すべてが上手くいくわけではありません。

新しいフレームワークの導入に失敗し、一時的にサービスが不安定になった経験があります。この失敗から学んだのは、変化を急ぎすぎることの危険性です。

しかし、この失敗も貴重な学習機会として、チーム内で共有しました。結果として、より慎重かつ確実な導入プロセスを確立することができました。

未来への希望

変化は、時として痛みを伴います。でも、その先にある成長の喜びは、それを上回るものがあります。

私たちエンジニアには、技術の力で組織を良い方向に変えていく責任があります。その変化は、必ずしも大きなものである必要はありません。

小さな一歩から始めましょう。あなたのその一歩が、組織を変える大きなうねりとなるかもしれません。

最後に

組織の改革は、上からの決断も重要です。でも、一人一人が「腐らない水」であろうと意識することも同じくらい大切だと思います。

若い世代が活躍できる職場づくりは、結果として組織全体の活性化につながります。私たちベテラン社員にできることは、その環境づくりの一翼を担うことなのかもしれません。

若手の退職は、単なる人材の損失ではありません。それは組織の健全性を映し出す鏡なのかもしれません。彼らが次々と見限っていく現実に、私たちはもっと真剣に向き合う必要があるのではないでしょうか。

(編集部)
タローさん、手記をお寄せ戴き、有り難うございました。
読者のみなさんの職場ではどうですか?コメント欄で皆さんの経験や考えをシェアしてもらえると嬉しいです。

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